ガールズ競輪は成績が悪いとクビになる?「代謝制度」について解説
競輪は誰よりも早く自転車を漕ぎ、先頭でゴールラインを駆け抜けた選手が勝者となる単純明快な競技です。
しかし単純明快であるがゆえ、正に弱肉強食の世界でもあり、勝ち続けなければ上には上がる事が出来ないばかりか、あまりにも成績が悪すぎると「クビ」を命じられる事もあります。
本記事ではガールズ競輪選手がクビになってしまう条件を解説しつつ、ガールズ競輪特有の問題点についても検証していきます。
ガールズ競輪も男性競輪と同様クビになることがある
(引用元:ガールズケイリン公式サイト)
冒頭で、競輪選手はあまりにも成績が悪いとクビになる事があると説明しました。
しかし競輪選手は男性ばかりではありません。
今では女性選手だけで争われる「ガールズ競輪」が競輪においてとても重要なカテゴリのひとつとなっています。
彼女たち女子競輪選手も例外ではなく、成績があまりに悪いとクビを命じられる事があります。
この代謝に関する取り決めが記載されているのが「代謝制度」になります。
競輪における代謝制度について
競輪は半年ごと(六月末と十二月末)に成績の審査が行われ、一部の成績上位選手が上のクラスに昇格、逆に成績下位選手が降格します。
競輪における最下級クラスはA級3班で、このA級3班の中で定められた期間、競走得点が最下位クラスだった選手に対して「代謝」が言い渡されます。
そして、一度競輪選手を引退すると、2度と競輪選手として返り咲く事はできません。
何故かと言うと、競輪選手になるために入学が必須である「競輪学校」の入学条件の一つに、「競輪選手の経験がない事」と記載されているからです。
ガールズ競輪で代謝となってしまう条件
代謝制度の基本的な取り決めは理解してもらえたでしょうか。
ここからは女子競輪選手が代謝となってしまう条件について解説しますが、その前に補足情報として、女子競輪選手はランク分けがなされておらず、全員がL級1班となっているので、級別が降格していくといった事はありません。
2期連続して競走得点が47点未満
ひとつ目の条件は2期連続して競走得点が47点未満となった場合、即刻代謝扱いになります。
ガールズ競輪の競走特典を調べてみたところ157人中ちょうど真ん中くらいに位置する78位の選手は50.31という成績でした。
したがってだいたいこの点数が中央値になると言えるでしょう。
2023年4月時点で競走得点トップは佐藤水菜選手の58点(勝率驚異の100パーセント!)、最下位は萩原瑞生選手の44点、50点から見ると上とは8点差、したとは6点差なので50点が中央値というのはそれなりに正しいと言えるでしょう。
現時点では124位の選手以下が47点以下となっています。
だいたいワースト30を1年間継続すると代謝対象になる可能性が高いと考えられます。
直後の期も加えて、競走得点の3期平均が47点未満
何とか1年間競走得点47点未満の条件をクリアしてもまだ安心できません。
その次の期の結果が芳しくなく、3期平均が47点未満となってしまった場合も代謝対象となります。
例えば1期目が44点、2期目が48点だったとしましょう。
この点数だと2期連続47点未満の条件はクリアしています。
ところが3期目で45点しか獲得できなかったとすると、3期の合計得点は139点、3で割ると46.3点となるので、残念ながら代謝対象となってしまいます。
上記2つを満たして、競走得点の3期平均の下位3名が対象
しかし、上記条件を満たしてしまっても全員が代謝になる訳ではありません。
流石に上記条件を満たす選手全員が対象だと大量に引退選手がでてくるケースもあり、選手の人数そのものが減ってしまうでしょう。
したがって、上記の条件を満たしてなおかつ競走得点の3期平均がワースト3になってしまった3名が最終的な代謝対象になります。
流石にここまで競走得点が振るわない選手はこれからの活躍も期待できないため、代謝対象となるのは致し方ないと言えるでしょう。
競艇の「引退勧告」と競輪の「代謝制度」との大きな違い
引退を言い渡される公営競技は競輪だけではありません。
競艇においても、4期通算の勝率が3.80を下回った場合に「引退勧告」が言い渡されます。
しかしながら、競艇の「引退勧告」と競輪の「代謝」には大きな違いがあります。
それは、競艇においては「猶予期間」が定められているという点です。
競艇では4期、つまり2年間勝率が3.80を下回った際に引退勧告が告げられますが、デビューしてから2年間は猶予期間が設けられていて、この機関の勝率がすべて3.80未満だったとしても引退勧告の対象とはなりません。
その最大の理由として、ルールブックには記載されていない、「新人選手はどの艇であっても6コースから進入しなければならない」というルールがあるためです。
新人選手、しかも最も不利である6コースから進入しなければならないという状況で上位に入ったり、ましてや勝利するような選手はほんの一握りでしょう。
ところが競輪の場合、このような猶予期間は一切ありません。
新人選手としてデビューした瞬間から代謝制度は採用され、引退の恐怖と向き合わなければならないのです。
デビュー1年半で引退してしまう選手も
そのためデビューしてからなかなか波に乗れないままだと初年度からいきなり競走得点47点未満のまま3期連続、つまり1年半ずっと最低ラインをクリアできずに代謝対象となって引退してしまうという選手もいます。
この停車を「ストレート代謝」と呼んでおり、競輪選手にとっては最も不名誉な記録の一つといえるでしょう。
2023年度に引退することとなってしまった選手の中にもデビュー1年半で代謝対象となってしまった女子競輪選手が存在します。
ガールズ競輪における「代謝制度の問題点」
ここからは、ガールズ競輪ならではの「代謝制度に関する問題点」を検証していきます。
この問題点は、ラインがなく完全に個人戦となるガールズ競輪だからこそ浮かび上がってくる問題といえるでしょう。
しかしながら、何らかの解決策を講じないと取り返しのつかないことになる事例だと個人的には考えています。
近年新人選手の「ストレート代謝」が相次いでいる
ガールズ競輪特有の問題点とは、新人選手の「ストレート代謝」が相次いでいるということです。
もちろん新人選手はレース経験が未熟であるということもあってデビューしてからなかなか勝てない日々が続くことは仕方がないですし、現在活躍している選手もそういった苦境を乗り越えて今の地位を確立しています。
とはいえ、近年は特に新人選手がストレート代謝の対象となってしまう事例が目に見えて増加傾向にあり、無視できない状況であるということは間違いないでしょう。
原因は「2極化」と「選手層が厚くなっていること」
このように新人選手のストレート代謝が増加している原因として、やはりガールズ競輪には「ライン」そのものが存在しないという点を取り上げないわけにはいかないでしょう。
男性選手の場合、ほぼ間違いなく「ライン」を組むことになります。
そしてラインを組んだ際はライン内の選手は全員が上位に入着するように協力し合って戦うことになります。
実力が若干劣っている選手であっても、ベテラン選手の協力があれば代謝を免れるような点数を稼ぐことは十分可能です。
しかしガールズ競輪にはラインがないので、上位に入るためには選手個人の力で何とかするしかありません。
新人選手であっても、自転車競技に対しての適性が異なればレースの結果に大きく影響します。
そのため、特に新人選手に関しては成績の「2極化」が顕著に現れます。
例えば先ほど2023年にストレート代謝することになった新人選手は「120期」なのですが、同期の選手のうち、内野艶和選手、吉川美穂選手はすでに5勝をマークしています。
とはいえ、彼女たちはもともと自転車競技でトップクラスの活躍をしていて、前評判も高かったためこの結果になるのは至極当然といえます。
問題は自転車競技の経験がない新人選手で、順応できないままあっという間に1年半が経過、そのまま代謝対象となって引退となるケースが圧倒的に多いのです。
そしてもうひとつが、ガールズ競輪の歴史が長くなってしまったことによる弊害です。
ガールズ競輪ができて間もないころは選手の経験もまだ浅かったので、新人選手で自転車競技の適性が低い選手でも頑張れば何とかボーダーラインを突破するような成績を記録することができていました。
ところが、近年はどんどん選手層が厚くなっていっており、その壁を新人選手が打ち破るということ自体がかなり困難になっています。
能力的に劣っていてなかなか順位を上げていくことができないまま引退せざるを得ないのは競輪という競技の性質上仕方ないことですし、このルール自体を改定する必要は全くありませんが、新人選手がガールズ競輪という競技にまったく適応できないまま引退しなければならないという現状は変えていくべきではないでしょうか。
2極化が進んでしまっているのであれば、グレードレース常連組と、一般戦でもなかなか成績を上げることができない下位選手とで「階級」を設ける、あるいは競艇とおなじように新人選手に対しては一定期間の「猶予期間」を設けるなどといった対策を講じればこの問題は少しは解決へと進むのではないでしょうか。
まとめ
ここまでガールズ競輪の「代謝」について解説しました。
ガールズ競輪においては、以下が代謝の対象となる条件になっています。
・3期平均の競走得点が47点未満
なおかつ上記ふたつの該当する選手のうち、平均得点がもっとも低い3名が実際に代謝を命じられることになります。
代謝を命じられた選手はどのような理由があっても競輪選手を引退しなければならず、競輪選手の経験がある人は競輪学校に入学できないため、引退した場合は2度と競輪選手になることはできません。
競艇においても「引退勧告」という同じような制度がありますが、競艇の場合はデビューして4期、つまり2年間は猶予期間となっていて、この期間であれば対象となってしまうような低い成績だったとしてもカウントされることはありません。
一方競輪においては猶予期間は一切なく、デビューした直後から代謝の恐怖と戦わなけれなりません。
ガールズ競輪は個人戦であることから、選手間の成績の差が顕著であり、明確な「2極化」が進んでいます。
新人選手でもこれまでに自転車競技の経験があればすぐに順応して勝利を積み重ねることができますが、まったく経験のない新人選手は選手層が厚くなった現在のガールズ競輪ではなかなか思うような走りができません。
そしてあっという間に1年半が経過し、ストレート代謝してしまうという事例が近年特に増えてきています。
現状が改善されないと、自転車競技の経験がある人しか女子競輪選手になりたいと思わなくなってしまうでしょう。
「階級制の導入」や「新人選手の猶予期間を設ける」などといった対策は必要なのではないでしょうか。