競輪のレースのペースメーカー役「先頭誘導員」について詳しく解説
競馬を見ているとレースを走っている競走馬や鞍上の騎手に注目してしまいますが、競馬のレースというのは騎手と競走馬だけで成立しているわけではありません。
レースがおこなわれる芝やダートのメンテナンスをする人、パドックなどでレース前の競走馬を誘導する誘導員、鐙などの馬具のメンテナンスや管理をする人、競走馬がゲートに入る際に補助をする人、スタートの合図をするスターター、それ以外にも数えきれないほどの「裏方さん」が存在しており、競馬のレースが滞りなく行われるのは彼らのお陰だといっても過言ではありません。
本記事では競輪のレースを進行する上で非常に重要な裏方役である「先頭誘導員」について解説していきます。
レースで先頭を走っているのは誰?
競輪のレースは7名で争う「7車立て」レースと、9名で争う「9車立て」レースがありますが、実際のレースを観ていると7車立てでは全部で8名が、そして9車立てでは全部で10名の選手がコースを周回していることに気づきます。
競輪のレースを初めて見た人は「いつも先頭を走っているその人は誰なんだろう」と思ってしまうのではないでしょうか。
競輪のレースで常に先頭の自転車に乗っている人は「先頭誘導員」といって、競輪選手ではありませんがレースを進行するうえで無くてはならない役割を担っています。
先頭誘導員の役割
レースで常に先頭を走っている「先頭誘導員」は大きくふたつの役割を担当しています。
ふたつともレースをスムーズに、そして公平に進行していくうえではとても重要で、先頭誘導員がいるからこそ白熱したレースを楽しむことができるのです。
ペースメーカー
先頭誘導員の役割のひとつ目は「ペースメーカー」です。
競輪では各周回の基準タイムというものが設定されています。
ところが先頭誘導員が居らず、選手だけでレースが行われるとこの周回タイムが正確に分からないまま自由なペースでレースが進行してしまうため、車券を購入する側からするとレース展開を予想できなくなってしまいます。
先頭誘導員は審判室からの指示を受けながらコースを周回します。
各選手は先頭誘導員が周回している間は誘導員を追い抜くことは禁止されているので、先頭誘導員の後ろを走っていれば自然と常に一定のペースで周回できるというわけです。
先頭選手の風除け
先頭誘導員は「一番前の選手の風除け」の役割も担当しています。
自転車を漕いでいると向かい風の抵抗をかなり受けます。
私たちの漕ぐ速度でもかなり向かい風の抵抗で速度が落ちてしまうのですが、競輪選手は最高時速70キロという驚異的なスピードで自転車を漕ぐため、向かい風も私たちが感じるものとは比べ物にならないほど強烈です。
そのような向かい風を先頭選手がスタートからずっと受け続けてしまうとスタミナの消費は凄まじいとなるため、誰も先頭を走ろうとしませんし、先頭を走る選手は明らかに不利になってしまいます。
しかし実際のレースでは先頭誘導員が途中まで前を走ってくれるので、先頭選手は最後の争いになるまで風の影響をほとんど受けないまま周回することができます。
先頭誘導員の服装
(引用元:チャリLOTO Perfecta Navi)
先頭誘導員は常にレースで一番前を走っているので誰でもどれが先頭誘導員かは分かりますが、服装は紺色にオレンジのラインが入ったユニフォームを着用することが義務付けられています。
ちなみに競輪選手のユニフォームにはラインが入っていないので、ユニフォームを見るだけでも先頭誘導員か選手かをすぐに見分けることが可能です。
ズボンの色も上着と同じ紺色であり、競輪選手のスボンは黒色とまったく違うのでどの場所を見ても競輪選手と先頭誘導員か判別することができます。
先頭誘導員のヘルメットにはヘッドフォンが装着されていて、審判室から周回するペースなどの指示を聞けるようになっています。
先頭誘導員はレース中どのように動いている?
(引用元:まつどライフプロモーション)
先頭誘導員は実際のレース中どのように動いているのでしょうか。
先頭誘導員のスタート位置は選手のスタート位置よりも25m前に設けられていて、スタートの合図が出ると選手と同じタイミングでスタートします。
競輪のルールでは「先頭誘導員の追い抜き禁止ゾーン」というものが設けられていて(333m残り2周半まで、400m残り2周まで、500m残り1周半まで)、この距離になる前に先頭誘導員を追い抜いてしまうと直ちに失格となってしまいます。
追い抜き禁止ゾーンを超えると選手たちは本気で漕ぎ始め、激しい最終争いを繰り広げます。
ここまで来ると先頭誘導員の役目はひとまず終了です。
先頭誘導員が追い越されそうになる又は追い抜かれた時点で審判室から合図が出て先頭誘導員はコースから外れることになります。
コースから外れても先頭誘導員はすぐに帰れるわけではありません。
役目を終えた先頭誘導員は次のレースが終了するまでその場に待機することになります。
何故かというと、次のレースが何らかの理由で不成立となってしまった場合、そのレースの先頭誘導員の代行を務めなければならないからです。
先頭誘導員を追い抜くときのルール
先頭誘導員を追い抜くときのルールについてですが、先ほど紹介した「追い抜き禁止ゾーンを過ぎるまでは追い抜いてはいけない」というのがひとつ目のルール、そしてもう一つは先頭誘導員に対して危険とみなされるような走行をして追い抜いてはいけないというルールです。
例えば早く先頭に行きたいと思うあまり、先頭誘導員に対して後ろや横から煽るような走りをしたり、先頭誘導員の外側のコースを走ってすぐ横につけるといった走りをしたりすると失格とみなされる可能性が高いです。
しかしながら危険走行に関しては明確なルールがないので、先頭誘導員が離れるまでは選手はおとなしく後ろを追走しているほうが無難でしょう。
先頭誘導員になるには?
先頭誘導員の仕事自体はそこまで難しいものではありませんが、なりたいと思ってすぐに任命されるような仕事ではありません。
まず先頭誘導員は競輪選手でなければなる事ができません。
本気で走るわけではないとはいえ、レースがおこなわれるバンクのコーナー部分はかなりの傾斜が設けられているので、素人ではまともに走る事すら困難でしょう。
競輪選手に限定するというのは安全面から考慮しても妥当な基準だと言えます。
もうひとつの条件は「2,000mを2分55秒以内で走破する」というものですが、このタイムは競輪選手であればまったく問題なく走れるタイムなので、ほとんどないようなものです。
ということは、競輪選手になりさえすれば試験を受ければ必ず合格できるということになります。
実際に競輪選手のなかには先頭誘導員の試験を受けて資格を取得するという選手もいるようです。
先頭誘導員の給料
先頭誘導員は自分が担当した次のレースも成立すれば手当をもらい、競技場から帰ることが許されます。
この手当てが先頭誘導員がもらえる「給料」で、固定給のようなものは存在しません。
手当はレースのグレードが上がるに連れて高額となり、F2レースだと4,000円から1万円、F1レースだと1万円から3万円、G3では1万円から6万円ほど、年1回のみ開催されるKEIRINグランプリでは20万円になるそうです。
特にランクが低いA級3班選手にとっては手当がもらえる先頭誘導員は貴重な収入源のひとつといえそうですが、立候補して先頭誘導員になれるというわけではなく、各レースの先頭誘導員はJKA本部が資格を持っている選手のあっせん状況などを調べて選定しています。
まとめ
競輪のレースでは選手のほかに先頭誘導員と呼ばれる係員がコースを周回します。
先頭誘導員はレース途中までのペースを一定に保つペースメーカーの役割とともに先頭を走る選手の風除けの役割も担っており、レースを公平にかつスムーズに進行するために先頭誘導員は無くてはならない存在です。
競輪のルールでは「先頭誘導員の追い抜き禁止ゾーン」というものが設けられていて、そのゾーン手前で追い抜いたり、先頭誘導員に対して危険と見なされる走行をするとその時点で失格となります。
先頭誘導員は競輪選手であればほぼ誰でもなれるため、実際に競輪選手として走る傍ら先頭誘導員としてコースを周回する選手も多いです。